不整脈

【記事監修】
あさくさ橋心臓と血管のクリニック
院長 高橋 保裕

院長 高橋 保裕下肢静脈瘤血管内焼灼術実施医・指導医https://www.jevlt.org/ja/

開院前に勤務していた大学病院や地域中核病院では、1万件近い心臓や末梢血管のカテーテル治療に携わり、様々な症例に対して豊富な治療経験を持ちます。
近年では「ライブデモンストレーションのライブオペレーター」として各学会に招待され、カテーテル治療を学ぶ多くの医師の前で治療を行うなど、技術指導者としても活動しています。
「患者様を自分のたいせつな家族と思って診療する」をモットーに、下肢静脈瘤日帰り手術(カテーテル治療)や一般循環器診療を行っております。

不整脈とは

心臓は血液を全身に送るためポンプの役目をしています。左心室(さしんしつ)と右心室(うしんしつ)という部屋の筋肉が収縮することにより部屋の中に貯まった血液を押し出しています。ポンプが効率よく働くためには、収縮するタイミングが重要です。たとえば、空気入れでボールに空気を入れるときに素早く押しすぎると空打ち状態になり効率よく空気を入れることができません。反対に遅すぎるといつになってもボールに空気は入りません。十分な空気をピストン内にため込んで良いタイミングで空気を注入することにより短時間でボールが膨らむことができます。心臓も効率よく血液を全身に送るために、状況に合わせて心臓自身でタイミングを調整しています。このタイミングを調整するために心臓には電気回路が備わっています。不整脈とはこの電気回路に異常があり、心臓の収縮のタイミング(脈)が乱れることをいいます。そのため、どこの電気回路に異常があるかによって、不整脈の種類も様々です。

心臓の正常な電気の流れ

心臓には右心房・左心房・右心室・左心室という4つの部屋があります。左右の心房はそれぞれの心室につながる貯留槽のような役目があり、頭側(上側)に位置します。左右の心室はポンプの本体であり、心筋(心臓の筋肉)で囲まれています。心室の中に貯めた血液は心筋が収縮することで全身に血液を押し出します。心室は足側(下側)に位置します。心臓の電気の流れは、心房のてっぺんにある電気の発電所(洞結節)で電気が発電され、心房全体に電気が伝わり、心房と心室の間にある変電所のような場所(房室結節)を通って、心室内にある送電線(脚・きゃく)から電線(心筋)に伝わり、心臓の筋肉が収縮します。この電気回路を刺激伝導系と言います。心臓の発電所では、体の状況に合わせて、例えば安静にしているときには通常1分間に60-70回程度電気を発電し、心室を同じ回数収縮させています。不整脈とはこの電気回路に異常をきたし、脈が乱れることをいいます。

よくある不整脈

期外収縮

期外収縮は心臓の発電所(洞結節)からの電気刺激ではなく、別の場所から自家発電が起こり、心臓を収縮させる現象です。期外収縮には自家発電が心房(上にある部屋)で起こる上室性期外収縮、心室で起こる心室性期外収縮があります。どちらのタイプもほとんどの人にみられる不整脈であり、病的なことは少ないですが、頻度が多い場合や連発する場合には治療が必要になる場合もあります。健診などで指摘された場合には、お気軽にご相談ください。

期外収縮の症状

脈がとぶ、心臓がドクッとする、脈が乱れるなど

期外収縮の検査

診断のため

安静時12誘導心電図、24時間ホルター心電図 ほか

原因・合併症チェックのため

胸部X線、心臓超音波検査 ほか

期外収縮の治療

多くの場合、治療は必要ありません。

心房細動

心臓の発電所(洞結節)ではなく、心房の他の部位から異常な電気刺激が1分間に450-600回/分程度無秩序に発生し、それが変電所(房室結節)に伝わります。房室結節では、すべての電気刺激を送電線には伝えることはできず、多くは4~6回に1回程度が無秩序に送電線から心室に伝わります。その結果、100-150回程度のリズムの乱れた心室の収縮が起こります。心房細動の問題点は①脈が乱れること(速くなりすぎたり、ときには遅くなりすぎたりする)、②心房が無秩序な電気刺激によりけいれん状態となるため、心房での血液循環が悪くなり、心房内で血栓が形成され易くなることです。血栓は心臓から血流に乗って出て脳に行けば脳梗塞(脳組織の壊死)、腎臓に行けば腎梗塞(腎組織の壊死)、足の血管にいけば急性下肢動脈閉塞となります。

心房細動の症状

脈が乱れる、動悸、意識消失、血栓による症状(脳梗塞、腎梗塞、下肢虚血)など

心房細動の検査

診断のため

安静時12誘導心電図、24時間ホルター心電図 ほか
※最近では、Apple Watch(アップルウォッチ)の心電図アプリを搭載したモデルが、診断の補助につながっています。

原因・合併症チェックのため

心臓超音波検査など

心房細動の治療

心房細動の治療は、不整脈自体と血栓に対応することが必要です。

1.無秩序な脈の乱れに対する治療
  • 薬物療法:心房細動自体を停止させ、通常の規則正しいリズムに戻す治療と心房細動はそのままで心拍数を減らす治療があります。心房細動が長期間持続すると心房細動自体を停止させる治療は困難な場合が多いです。
  • 電気的除細動:鎮静薬使用下(眠った状態)で電気ショックをかけ(胸部に)、正常なリズムへ戻します。
  • カテーテルアブレーション:カテーテルアブレーションとは、太ももの付け根やくびの皮膚から血管を通して電極カテーテルを心臓内に挿入します。電極カテーテルから高周波通電を行い、不整脈の原因となる異常部位を焼灼(熱で焼くこと。焼くといっても熱さは感じません)して不整脈を治療します。治療効果には一般的に3・4日間の入院が必要です。
2.血栓の形成を抑える治療

血栓のできやすい人は、抗凝固療薬という薬剤(ワーファリンなど)を服用します。心房細動を有する方で下記の方は血栓のできやすいと報告されており、抗凝固療法(血液をサラサラにする治療)を行います。

  • 心不全・心臓の動きの悪い方
  • 高血圧の方
  • 75歳以上の方
  • 糖尿病の方
  • 脳梗塞、一過性の脳虚血発作のある方

発作性上室性頻拍

変電所(房室結節)あるいは心室と心室の間でリエントリー回路という高速で電気が回る異常な電気回路によって、電気が回るたびに心室に電気が伝わり、非常に速いリズムで心室が収縮する不整脈です。症状は突然の動悸(ドキドキする感じ)です。心拍が速いとめまいや息切れを感じる場合もあります。安静時12誘導心電図検査、24時間ホルター心電図で診断可能です。自然に改善する場合も多いですが、発作が持続する場合には、薬物療法で正常なリズムに戻す必要があります。また、発作性上室性頻拍は、発作を繰り返すことが多いため、カテーテル治療により異常なリエントリー回路を焼灼し(熱で焼く)、治療することが可能です。

洞不全症候群

洞不全症候群は文字通り、洞結節(=心臓の発電所)の機能が低下する状態です。発電所からの電気刺激の回数が著しく減ったり、不安定になったりするため、心拍数が著しく減ったり、心拍の乱れが生じたりします。症状がなく健康診断で発見されるケースが多いですが、発電所の機能が高度に低下すると、めまいや意識を失ったりすることがあります。検査は安静時12誘導心電図検査24時間ホルター心電図検査などで診断します。治療は無症状であれば、経過観察となることが多いですが、めまいや意識を失うなどの症状がみられた場合には、ペースメーカー植え込み術を行います。また、一部の高血圧や不整脈、てんかんなどに対する薬剤で洞不全症候群が誘発される場合があります。そのような場合には、原因薬剤を中止します。

房室ブロック

房室ブロックは文字通り、房室結節(=変電所)の機能が低下する状態です。発電所からの電気刺激は正常であっても、変電所で電気の通りが遅くなったり、数回に1回しか電気を通さない状態になると、心拍数が著しく減ったり、心拍の乱れが生じたりします。軽度な場合には症状もなく、健診などで発見される場合が多いですが、変電所の機能が著しく低下すると、めまいや意識消失などの症状がみられるようになります。検査は安静時12誘導心電図検査24時間ホルター心電図検査などで診断します。治療は無症状であれば、経過観察となることが多いですが、めまいや意識を失うなどの症状がみられた場合には、ペースメーカー植え込み術を行います。また、一部の高血圧や不整脈などに対する薬剤で房室ブロックが誘発される場合があります。そのような場合には、原因薬剤を中止します。

心室頻拍、心室細動

心室頻拍は発電所からの電気刺激を打ち消すような電気刺激が心室から非常に速い間隔で発生し、心室をぎこちない、且つ速い収縮をさせてしまう不整脈です。心臓のポンプ機能が著しく低下するため動悸だけでなく、意識を失ってしまいます。また、心室頻拍が続くと、電気的に不安定な状態となり、心室で無秩序に電気が発生し、心室の筋肉は痙攣(けいれん)状態となります。このような状態を心室細動といい、心室のポンプ機能は完全に停止するため、心停止状態となります。意識消失発作があった場合には、このような重大な状況が起こっている可能性がありますので、救急要請するとともに、呼吸がない場合には救命処置を行うことが重要です。

不整脈の検査

 

安静時12誘導心電図

上半身裸になり検査台に仰向けに寝ます。電極を両手首・両足首・胸6カ所に電極を取り付けます。心電計で心臓の拍動に伴っておこる微細な電位変動を記録していきます。検査による苦痛は全くありません。検査時間は1-3分程度です。不整脈、狭心症、心筋梗塞、心臓肥大などを診断することができます。

 

24時間ホルター心電図

24時間持続的に心電図記録をすることができます。一般的な心電図検査では、確認できない夜間や就寝時等の時間帯についても、心電図の変化を確認することが可能です。いつ、何をしている際に、どのような不整脈や心臓の筋肉への血流不足が起こっているのか分かるため、不整脈や狭心症などの診断に役立ちます。

 

植込み型ループレコーダー

ホルター心電図では24時間の記録しかできませんが、本機器では長期間(最長3年)にわたる記録が可能です。大きさ4.5×1cm程度の器機を皮フに小さな切開を加えて植え込みます。記録された心電図記録は皮フの外に専用の機器を当てることで解析することが可能になります。以下のような方が対象です。

  • 原因不明の意識消失発作
  • 原因不明の脳梗塞患者における心房細動の診断
 

運動負荷心電図(当クリニックでは施行しておりません)

心電図を装着して、ベルトの上を走ったり、自転車を漕いだりする検査です。運動負荷心電図では、早足で歩いたり、坂道を登ったりする運動によって現れる症状を作り出します。意図的に、息切れや動悸、胸の痛み等を起こして、血圧や心電図の変化を確認します。

不整脈の治療

 

薬物療法

不整脈の種類によって様々な種類の薬があります。病状や患者様の背景によって医師が適切な薬を選択します。基本的には心臓の電気の流れを調整する薬になりますが、心房細動では心臓の中に血栓ができ、脳など全身の臓器に血栓が流れていく可能性があるため、血液をサラサラにする薬を服用します。

 

カテーテルアブレーション

カテーテルアブレーションとは、高周波(電子レンジのようなもの)を出すカテーテル(プラスチックの細い管)で不整脈の原因となっている部位を熱で焼灼する治療です。太ももの付け根やくびの皮膚に局所麻酔を行い、そこから血管を通して電極カテーテルを心臓内に挿入します。頻脈性(脈が速くなるタイプ)不整脈の治療は、薬物治療と非薬物治療があります。カテーテルアブレーションは非薬物治療法の代表的な治療法であり、治療が成功すれば、抗不整脈薬を服用する必要がなくなる可能性があります。通常は3・4日間の入院が必要です。当クリニックでは行っていないため、必要な場合には適切な医療機関を紹介致します。

 

ペースメーカー植え込み術

脈の遅い不整脈に対して行う治療です。鎖骨の下の前胸部にペースメーカー本体を植え込むためのポケットを形成し、電気刺激を伝えるためのリード(電線)を右心室や右心房に挿入します。麻酔は局所麻酔で行います。通常は1週間程度の入院が必要です。当クリニックでは新規の植え込み術を行っていないため、必要な場合には適切な医療機関を紹介致します。ペースメーカー本体のバッテリー低下による交換術について当クリニックで行っていますのでお気軽にご相談ください。

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