下肢静脈瘤の原因と予防法 – 下肢静脈瘤になりやすい人

下肢静脈瘤の原因と予防法 - 下肢静脈瘤になりやすい人

足の静脈がコブのようにふくらみ、症状が現れる下肢静脈瘤。その特徴や原因、予防法について理解しておくことは、発症を抑制し、症状を和らげるうえで重要です。この記事では、下肢静脈瘤の基礎知識から、主な原因、ならびに具体的な予防法まで詳しく解説します。

そもそも下肢静脈瘤とは?

下肢静脈瘤とは

「瘤(りゅう)」は「コブ」のことで、下肢静脈瘤は脚の静脈がコブのようにふくらむ状態を指します。中には、そのコブが目立たない場合や症状がむくみやだるさ、湿疹、皮膚の変色などで現れることもあります。

血管がクネクネ、ボコボコして目立ったり、クモの巣のような細い赤い糸状の血管が透けて見えて目立ったりすることがあります。その静脈の浮き出方や見え方にはさまざまなタイプがあります。

伏在静脈瘤
脚の内側とふくらはぎの皮膚表面近くにある大きな血管(伏在静脈)の逆流により起こるもの。大きな血管の逆流が原因であり、大きな瘤ができることが多いのが特徴です。脚のだるさ、浮腫やつりなどを伴う場合にはカテーテル治療などが行われます。カテーテル治療は逆流している伏在静脈にカテーテルといわれる細い管を挿入し、熱で血管を焼灼したり、血管内に医療用接着剤を注入する治療です。多くは局所麻酔で行われます。

側枝静脈瘤
伏在静脈から枝分かれし直径3mm程度の血管に逆流が起こるもの。瘤の大きさも伏在型に比べて小さく、カテーテル治療の対象にはなりません。湿疹やだるさなどの症状があれば、弾性ストッキング着用や硬化療法が行われる場合もありますが、そのまま経過をみる場合も多いタイプの静脈瘤です。硬化療法はポリドカスクレロールという注射剤を血管に注入し、血管に炎症を起こさせることにより血管を閉塞させる治療法です。簡便な治療法ですが、再発が多い点と治療後に血管に沿って色素沈着が残る場合があることがデメリットです。

網目状静脈瘤
直径2mm程度の細い静脈が拡張したもの。見た目以外の症状が出ることはないため見た目を気にしなければ、治療の必要はありません。見た目が気になる場合には硬化療法を行う場合があります。

クモの巣状静脈瘤
直径1mm以下の糸状の静脈が拡張したものでくもの巣のように見えるタイプの静脈瘤です。網目状静脈瘤同様に見た目を気にしなければ、治療の必要はなく、気になる場合には硬化療法を行う場合があります。

下肢静脈瘤の原因

下肢静脈瘤の原因

静脈には逆流防止弁と呼ばれる、逆流を防ぐ弁がいくつもあります。この弁が何らかの原因で壊れると、血液が逆流してしまいます。とくに脚の場合には、立っていたり、座っている時間が長いと、重力で脚の下の方に血液が溜まってしまいます。それにより血管が拡張し、静脈瘤ができてしまうのです。その他にも、ホルモンや遺伝的な原因で血管が拡張しやすくなる場合にも、静脈瘤ができやすくなります。

それぞれの原因について詳しく解説します。

原因①遺伝

下肢静脈瘤には遺伝性があります。親のいずれかが下肢静脈瘤を持つと、発症確率は約40%で、両親が患っている場合は約80%に上ります。
もし両親が静脈瘤を持っている場合、足の状態を定期的にチェックし、むくみやだるさなどの症状が強い場合は早めに受診することが大切です。

原因②女性・妊娠・出産

女性ホルモンは、血管を柔らかくする作用があるため、血管が拡張しやすく、また弁付着部で血管が拡張することにより弁の閉まり具合が悪くなることがあります。
とくに妊娠中は、女性ホルモンが多くなることとお腹の赤ちゃんと羊水による静脈の圧迫により脚の静脈に圧力がかかるため、下肢静脈瘤が発症しやすくなります。

通常多くの場合、症状は出産後に自然に改善しますが、出産後も血管の目立ちやぼこぼこした状態、だるさやむくみが残る場合があります。また、出産回数が増えるほど、出産後に症状が残りやすくなります。

原因③加齢

年齢が上がるにつれ、下肢静脈瘤の発生頻度が増加します。ただし、若い方に下肢静脈瘤が少ないと言うわけではなく、とくに30歳以上の方には多くみられます。

原因④長時間立ったままの姿勢が多い

立ちっぱなしの時間が長いと、下肢静脈瘤の発生が増加することが分かっています。立位時には、血液は重力に逆らって心臓に向かって上昇する必要があり、大変な労力を必要とします。
長時間立ち続けることで、血液の交通渋滞が起こり、
れにより、脚の静脈の逆流防止弁に過度な負担がかかり、最終的には弁が壊れて正常に閉じなくなります。

ただし、同じ立ち仕事でも途中で歩いたり体を動かしたりする場合、筋肉のポンプ作用が機能して、下肢静脈瘤の発生リスクは低くなります。典型的な立ち仕事の例には、美容師、理容師、教師、調理師、板前、販売員、工場の作業員、警備員などがあります。

原因⑤ 肥満、便秘

肥満や便秘の状態は、腹圧(お腹の中の圧力)が高まります。脚の静脈の血液はお腹を通って心臓に戻るため、腹圧が高いと静脈の血液がお腹の血管を通りにくくなり、脚の静脈に血液が溜まってしまう原因になり、脚の静脈自体や静脈弁に負担をかけてしまいます。

下肢静脈瘤になりやすい人

下肢静脈瘤は、何らかの原因によって足の静脈の血流が上手く流れなくなってしまう(交通渋滞を起こす)ことで発症します。 そのため足の静脈の血流が心臓に流れにくい状況が多くなると下肢静脈瘤の発症の機会を増大させます。

立ちっぱなしの仕事

長時間立っている状態によって、重力で足の血液の流れは悪くなります。また、立ちっぱなしで足の筋肉が動かないと筋肉ポンプによる足の血液の流れも期待できなくなります。このようなことが原因で、理・美容師や料理人の方など立ち仕事の多い方では下肢静脈瘤の発症が多いとされています。また、立ち仕事だけでなく、座りっぱなしの状況の多い方でも同じ理由で下肢静脈瘤を発症しやすいとされています。

妊娠・出産経験

妊娠・出産経験がある場合には、2人に1人が静脈瘤を発症すると指摘されています。理由は下記の通りです。

血液量の増加

妊娠中は、母親の血液量が約40〜50%増加することが分かっています。全身の静脈は、膨れて圧力が高まっている状態です。足の静脈は、重力の影響を受けやすいため、血液が滞りやすくなります。

黄体ホルモンによる影響

妊娠をした際には、血管を柔らかくする黄体ホルモンが増えます。血管が圧力に対して弱く拡がりやすくなるため、静脈弁が上手く機能できなくなります。

子宮による圧迫

子宮は、胎児が育つとともに大きくなります。骨盤内で静脈を圧迫するため、足から送られた血液はその部分で流れにくくなります。そして、足の静脈弁や血管に圧力がかかってしまい、静脈弁不全や静脈の拡張の原因になります。

遺伝的要素

下肢静脈瘤の遺伝的要素があるかどうかは、はっきり分かっていません。しかし、両親ともに下肢静脈瘤である場合には、発症する確率は90%といわれています。一方、どちらかの親が下肢静脈瘤である場合には、発症する確率は25〜62%とされています。なお、両親ともに下肢静脈瘤ではない場合には、発症する確率は20%程度とされています。

加齢

加齢に伴って、静脈の壁がだんだん衰えていきます。血液の圧力に弱くなるため、静脈瘤を発症しやすくなります。

肥満

下肢静脈瘤の症状悪化には、肥満が関係していることが分かっています。肥満による腹圧の上昇で足からの静脈の血流が悪くなることと運動不足による足の筋肉ポンプ機能の低下が原因とされています。運動を行うことで足の筋肉ポンプ機能が改善し、脂肪燃焼による肥満による腹圧上昇がなくなるため、運動は一石二鳥の治療になります。

性別

卵黄ホルモンといわれるエストロゲンと黄体ホルモンは、月経との関わりが深く、周期的に分泌量の調整を行っています。これらの女性ホルモンは、静脈壁を柔らかくするため、静脈瘤が生じやすく、静脈弁の機能も働きにくくなるとされています。そのため、下肢静脈瘤は、女性に多く見られるとされています。

下肢静脈瘤の予防法

下肢静脈瘤の発症を予防し、症状を軽減し、再発を防ぐためには、セルフケアや日常生活の注意点が重要です。

予防法①医療用の弾性ストッキングを装着する

弾性ストッキングは特殊なストッキングで、全体的に強い締め付け圧があります。足首から上に向かって徐々に圧力を下げ、静脈の流れを改善します。常の靴下やストッキングのように柔らかく伸び縮みしないため、手の力が不足している方は着用が難しいことがあります。着用により脚の症状は緩和することがありますが、根本的な治療法ではありません。

市販品では通常、圧迫圧が15mmHg以下の低いものが一般的です。医療機関では繊維の編み方が工夫された高い圧迫圧のストッキングもあります。医療用品は通常高価ですが、市販品よりも耐久性があり、医師が使用目的に合わせて提案できるメリットがあります。最初は違和感を感じるかもしれませんが、正しい着用で効果を期待しましょう。

 

予防法②生活習慣を改善する

肥満は下肢静脈瘤の原因となります。適度な運動や規則正しい生活、バランスのとれた食事などを心がけましょう。

 

予防法③脚のストレッチやマッサージを行う

かかとの上げ下げを繰り返すなど、ふくらはぎの筋肉を収縮させるストレッチがおすすめです。お風呂での脚の下から上に軽くさするようなマッサージも有効です。

 

予防法④長時間の立ちっぱなしや座りっぱなしを避ける

避けられない場合は、足踏みやかかとの上げ下げなど、簡単な動きを取り入れるだけでも効果があります。また、仕事の合間や昼休みなどに5分程度のマッサージを心がけましょう。

 まとめ

下肢静脈瘤は、遺伝的な要因や妊娠、加齢、長時間の立ち仕事などが影響します。
遺伝的な傾向がある場合は、親の状態を早めに確認し、定期的なチェックをすることが重要です。妊娠や出産経験がある女性は特に注意が必要であり、適切なセルフケアが求められます。

症状が軽いうちに医療用の弾性ストッキングや生活習慣の改善、脚のストレッチやマッサージ、長時間の立ちっぱなしや座りっぱなしを避けることが悪化で予防や症状の改善に効果的です。

気になる症状や疑問などがございましたら、お気軽に当クリニックまでご相談ください。

【記事監修】
あさくさ橋心臓と血管のクリニック
院長 高橋 保裕

院長 高橋 保裕下肢静脈瘤血管内焼灼術実施医・指導医https://www.jevlt.org/ja/

開院前に勤務していた大学病院や地域中核病院では、1万件近い心臓や末梢血管のカテーテル治療に携わり、様々な症例に対して豊富な治療経験を持ちます。
近年では「ライブデモンストレーションのライブオペレーター」として各学会に招待され、カテーテル治療を学ぶ多くの医師の前で治療を行うなど、技術指導者としても活動しています。
「患者様を自分のたいせつな家族と思って診療する」をモットーに、下肢静脈瘤日帰り手術(カテーテル治療)や一般循環器診療を行っております。

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